東京高等裁判所 昭和25年(う)1370号 判決
所論に鑑み記録を調査するに、原審第二回公判調書及び原判決書によれば、同公判において、検察官が米軍極東司令部犯罪調査実験所の実験報告書(原文及び訳文)の証拠調を請求した際、弁護人が、右報告書が、被告人の所持していた麻薬を実験した結果を記載したものであることが判明すれば、右書面を証拠として取り調べることに同意すべき旨の意見を述べたところ、原審裁判官は、直ちに右書面の証拠調を為し、且つ原判決においてこれを事実認定の証拠として採用していることを認めることができる。ところで右実験報告書は、刑事訴訟法第三百二十条、第三百二十六条第一項により、訴訟関係人の同意がなければこれを証拠とすることができない書面であるが、原審第二回公判における弁護人の前記意見は、右実験報告書は、果して被告人の所持していた薬品自体を実験した結果を記載したものかどうか不明であるから、他の資料によりこれが被告人の所持していた薬品自体を実験した結果を記載したものであることが判明すれば、証拠としての取調に同意するが、然らざる場合は同意しないという趣旨と解せられるから、原審弁護人は、右実験報告書の証拠調にその時直ちに同意したのではなく右の不明とする点が明らかになるまで、同意不同意の決定的意見の開陳を保留したものと認めざるを得ない。従つて原審としては、右書面について直ちに証拠調をしたり、更にこれを事実認定の証拠として採用することはできないわけであるが、原審において前記のように弁護人の前記意見を以て右書画の証拠調に同意したものと速断して直ちにその取調を為し、更に判決においてこれを事実認定の証拠に採用したのは、正に法令に違反する訴訟手続を敢てしたものといわなければならない。しかもこの法令違反の訴訟手続が判決に影響を及ぼすべきものであることはまことに明瞭であるから、原判決は既にこの点において破棄を免れないものである。